医療機関を受診する際には健康保険証の提示を求められ、これにより診察にかかった医療費を一部の負担だけですますことができます。
この何気なく使っている健康保険証は、公的医療保険に加入することにより交付されるものですが、すべての方が同じものを持っているわけではなく職業や年齢によって種類があり医療費の負担割合も異なります。
職業や年齢によって健康保険証にどのような違いがあるのでしょうか?
今回は、健康保険証の種類とその中身についてわかりやすく解説していきます。
国民皆保険制度の始まり
普段使っている健康保険証は、国民皆保険制度によって公的医療保険に加入している方に交付されているものです。
日本の国民皆保険制度は、「誰でも」「平等に」「必要なときに」公的医療保険の制度を利用できるようにつくられたもので、1922年(大正11年)から段階的に整えられ、1936年(昭和36年)4月に全国民が利用できるようになりました。
この国民皆保険制度は、WHOからも世界一の医療制度と評されるほどの医療保険制度になっています。
1922年(大正11年) | 工場などの労働者を対象 |
1927年(昭和2年) | ブルーカラーの労働者本人に限定したもの |
1958年(昭和33年) | 現行の国民健康保険法が制定 |
1961年(昭和36年) | 国民皆保険制度の始まり |
公的医療保険への加入すること利用できるものは、”療養の給付”などの様々なサービスで、加入する保険によっても若干の違いはありますが以下のようなものになります。
給 付 | 給付の内容 |
---|---|
療養の給付 | 一部負担の医療費で病気の治療を受けられる |
療養費 | 治療用補助具などにかかった費用の一部払い戻し |
高額療養費 | 医療費の自己負担額が高額な場合の払い戻し |
移送費 | 医師の指示での緊急入院・転院の費用の一部払い戻し |
傷病手当金 | ケガや病気で仕事を休んだ時の給与の一部が給付 |
出産手当金 | 出産で仕事を休んだ時の給与の一部が支給 |
出産育児一時金 | 子供が産まれたときに1児につき42万円が支給 |
埋葬費 | 本人や家族が亡くなった時に埋葬費が支給 |
給付によっては本人(被保険者)のみで、家族(被扶養者)は対象外になるものもあります。
健康保険証の種類
加入する公的医療保険は、加入者の年齢や仕事の状況などによって種類が異なり、社会保険の適用事業所における「協会けんぽ」や「健保組合」を始め、公務員の方が加入する「共済組合」や個人事業主などが加入する「市町村国保」や「国保組合」などがあります。
①協会けんぽ
「協会けんぽ」は、社会保険の適用事業所が加入する健康保険(健保)に含まれるもので、その運営を「全国健康保険協会」が行っています。主に中小企業に勤める会社員とその扶養家族が加入しており、一般的な会社員の健康保険証はこの協会けんぽの保険証になります。また、船員さんが加入する「船員保険」も協会けんぽに含まれます。
②健保組合
「健保組合」 は、協会けんぽと同様に社会保険の適用事業所が加入する健康保険(健保)に含まれます。その運営 は「国の認可を受けた単一の企業、または複数の企業」が自主的に運営・事業を展開しています。また、健康保険組合の連合組織として「健康保険組合連合会(健保連)」が各健保組合の活動を支え、保険者機能の充実・強化に向けた活動も行っています。
健保組合を設立するために必要な規模は?
健保組合を設立するためには会社に一定以上の規模が必要です。企業が単独で設立する場合(単一健保組合)には事業所で働いている被保険者が常時700人以上、2つ以上の事業所または2つ以上の事業主が共同して設立する場合(総合健保組合)には合計で被保険者が常時3000人以上であることが必要になります。
健保組合 | 常時、事業所で働いている被保険者の人数 |
---|---|
単一健保組合 | 700人以上 |
総合健保組合 | 3,000人以上 |
③共済組合
「共済組合」は国家公務員・地方公務員・私立学校教職員を対象とした公的医療保険で、「国家公務員共済組合」「地方公務員共済組合」「私立学校教職員共済」の3つに分類されています。
③市町村国保
「市町村国保」はその地域に住む個人事業主、未就業者など他の健康保険に加入していないすべての人が加入するもので、国民皆保険制度の基礎となるものです。市町村国保の運営は「都道府県」と「市町村」で行っており、都道府県が財政運営の責任主体となり、市町村は地域住民との関係性の構築や資格の管理などの事業を行っています。
④国保組合
「国保組合」は同じ種類の職業についている人を対象につくられているもので、医師・薬剤師・弁護士・土木建築業従事者などが国保組合をつくっています。
- 医師国保
- 歯科医師国保
- 薬剤師国保
- 税理士国保
- 全国土木建築
- 理容国保
- 美容国保
- 芸能人国保
- 文芸美術国保 など
⑤後期高齢者医療制度
「後期高齢者医療制度」は「都道府県ごとの広域連合」が運営している医療制度で、75歳以上の方を対象にしたものになります。後期高齢者医療制度への加入は75歳になる誕生日に実施され、同日付でそれまで加入していた公的医療保険の資格を喪失します。このとき扶養している方がいた場合には、その方は国民健康保険に加入することになります。
健康保険証の「記号・番号・保険者番号」の意味
どの種類の健康保険証においても、氏名・性別・生年月日などの他に「記号」「番号」「保険者番号」というものが記載されており、健康保険や共済組合の保険証ではこの情報を見ることである程度の勤務先を把握することができます。
記号
健康保険証にある「記号」は、「事業所整理番号」とも呼ばれるもので事業所ごとに割り振られている数字です。そのため、社会保険では勤務先の企業や団体ごとに異なり、国民健康保険では自治体ごとに異なる番号が記載されています。もちろん同じ職場であれば同じ番号が記載されていることになります。数字の桁数は加入している医療保険によって異なります。
番号
健康保険証にある「番号」は、勤めている会社の中で用いている整理番号です。同じ部署内で同じ番号を使用している場合など、他の職員と同じ番号になることもあります。なお、扶養家族がいる場合には同じ番号が振り分けられます。
保険者番号
健康保険証にある「保険者番号」は、6桁・8桁の数字で記載されています。
保険者番号の桁数 | 保険の種類 |
---|---|
6桁 | ・国民健康保険 |
8桁 | ・社会保険 ・国民健康保険(退職者医療) ・後期高齢者医療制度 |
保険者番号は「法別番号」「都道府県番号」「保険者別番号」「検証番号」によって構成されており、番号を調べることで保険者を特定することができるようになっています。
法別番号
「法別番号」は加入している医療保険の種類を表す番号になります。
法別番号 | 医療保険の名称 |
---|---|
なし | 国民健康保険 |
01 | 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ) |
02 | 船員保険 |
03 | 日雇特例被保険者の保険(一般療養) |
04 | 日雇特例被保険者の保険(特別療養費) |
06 | 組合管掌健康保険 |
07 | 防衛省職員給与法による自衛官等の療養の給付 |
31 | 国家公務員共済組合 |
32 | 地方公務員共済組合 |
33 | 警察共済組合 |
34 | 公立学校共済組合/日本私立学校振興・共済事業団 |
39 | 後期高齢者医療制度 |
63 | 特定健康保険組合(特例退職被保険者) |
67 | 国民健康保険法による退職者医療 |
72 | 国家公務員特定共済組合 |
73 | 地方公務員等特定共済組合 |
74 | 警察特定共済組合 |
75 | 公立学校特定共済組合/私立学校振興・共済事業団 |
都道府県番号
「都道府県番号」は保険者が所在している都道府県を表す番号になります。
番号 | 都道府県名 | 番号 | 都道府県名 | 番号 | 都道府県名 |
---|---|---|---|---|---|
01 | 北海道 | 17 | 石川県 | 33 | 岡山県 |
02 | 青森県 | 18 | 福井県 | 34 | 広島県 |
03 | 岩手県 | 19 | 山梨県 | 35 | 山口県 |
04 | 宮城県 | 20 | 長野県 | 36 | 徳島県 |
05 | 秋田県 | 21 | 岐阜県 | 37 | 香川県 |
06 | 山形県 | 22 | 静岡県 | 38 | 愛媛県 |
07 | 福島県 | 23 | 愛知県 | 39 | 高知県 |
08 | 茨城県 | 24 | 三重県 | 40 | 福岡県 |
09 | 栃木県 | 25 | 滋賀県 | 41 | 佐賀県 |
10 | 群馬県 | 26 | 京都府 | 42 | 長崎県 |
11 | 埼玉県 | 27 | 大阪府 | 43 | 熊本県 |
12 | 千葉県 | 28 | 兵庫県 | 44 | 大分県 |
13 | 東京都 | 29 | 奈良県 | 45 | 宮崎県 |
14 | 神奈川県 | 30 | 和歌山県 | 46 | 鹿児島県 |
15 | 新潟県 | 31 | 鳥取県 | 47 | 沖縄県 |
16 | 富山県 | 32 | 島根県 |
保険者別番号
「保険者別番号」は保険者ごとに割り当てられる個別の番号になります。
検証番号
「検証番号」は保険者番号の末尾に表記される1桁の番号で、計算式を用いて算出し番号の誤りを検証するために用います。
検証番号の計算方法
- 保険者番号の末尾から2番目の数字を起点とし、「2・1・2・1…」の順番で掛けていく
- 末尾から2番目 ⇨ ×2
- 末尾から3番目 ⇨ ×1
- 末尾から4番目 ⇨ ×2
- 末尾から5番目 ⇨ ×1
- 算出した数字を合計する(算出した数字が2桁の場合は10の位と1の位の合計した数値を使用「例:12→1+2=3」として計算する)
- 合計した数値の1の位の数値を10から引いた数(10-x)が「検証番号」になる
健康保険証の種類による医療費の違い
医療機関を受診する際には、健康保険証を提示することにより一部の負担金で診療を受けることができますが、このときの負担割合は健康保険証の種類や加入している方の年齢によって変化します。
なお、一般会社の職員や公務員などの職種の違いによる負担割合の変化はありません。
年 齢 | 負担割合 |
---|---|
75歳以上 | 1割負担 |
70歳以上74歳まで | 2割負担 |
6歳(義務教育就学後)以上69歳まで | 3割負担 |
6歳(義務教育就学前)未満 | 2割負担 |
70歳以上の場合でも所得が「現役並み所得者(年収370万円以上)」に該当する方は3割負担になります。
健康保険証の使用にあたって気を付けたいこと
健康保険証は医療機関に提示するだけで医療費の自己負担額を少なくしたり、身分証明書として使用できる便利さもありますが、その使用にあたっては気を付けておきたいことがあります。
①医療機関の受診時には必ず健康保険証を提示する
医療機関では患者さんに健康保険証を提示してもらい、「どの健康保険に加入しているのか」「負担割合は何割か」「加入期限は過ぎていないか」などを確認した上で、その人が支払う医療費を計算をしています。そのため、健康保険証を忘れた場合など提示できない場合には全額自己負担での支払いになってしまいます。
健康保険証を忘れた場合には???
健康保険証を忘れてしまうことも起こりえます。そのような場合には健康保険証の確認ができないので負担割合も分かりません。そのため、医療費を全額(10割)支払い、健康保険証の確認ができしだい多く支払っていた分(7割分)の医療費を返金してもらうことになります。
仮に3,000円(10割)の医療費だった場合、まずは全額3,000円を支払っておき、後日、健康保険証(3割負担)を提示することで負担額である900円以外の2,100円を返金してもらうことになります。
②健康保険証の資格喪失日を確認する
当然のことですが、健康保険証は会社を退職したときや扶養を抜けたときには使用できなくなります。健康保険証がない状態だと全額自己負担になるので、医療機関を受診する予定がある場合には、会社を退職する前や扶養を抜ける前に受診しておくことが重要です。
会社を退職する場合
勤めている会社を退職した場合には、退職日の翌日から健康保険証は使用できなくなります。退職前に病院受診を予定されている方は資格喪失日をしっかり確認しておくことが大切です。
加入者の扶養から抜けた場合
「就職したとき」「一定以上の収入(年間収入約130万円以上)を超えたとき」には、加入者の扶養から抜けてご自身で公的医療保険に加入することになります。そのため、扶養から抜けた日から健康保険証を使用できなくなります。
細かく健康保険証を確認される!?
仮に自己負担の割合が3割負担であった場合には、3割分を診察後に患者さんに請求し、7割分を翌月に健康保険証の発行元に請求します。
- 医療費の3割分を診察後に患者さんに請求
- 医療費の7割分を翌月に健康保険証の発行元に請求(受診日の翌月請求)
もしも健康保険証に不備があった場合には、請求しても7割分の医療費は支払ってもらえません。つまり、7割分の医療費は医療機関の収入として得られなくなってしまいます。そのようなことにならないように医療機関では受診時に必ず健康保険証の確認を行うようにしています。
健康保険証が使用できない状態の場合、患者さんに7割分の医療費を再度請求することになりますが、請求したとしても支払いに来られない方も多く、その際は医療機関は未収金として処理するしかなくなってしまいます。
マイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになる!?
現在、医療機関や薬局において、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるように、顔認証付きカードリーダーの導入が進められています。
このサービスが開始されることにより、保険資格等の情報が個人単位でデータベース化され、医療機関や薬局の受付でマイナンバーカードを顔認証付きカードリーダーに置くだけで、以下のようなことができるようになります。
- 就職・転職・引っ越しをしても健康保険証として使える!!
- 初めての医療機関等でも今までに使った薬の情報を確認できる!!
- 限度額適用認定証がなくても高額療養費制度を利用できる!!
厚生労働省では、令和3年からの運用を予定していましたが、マイナンバーカードの普及率の伸び悩み、医療機関や薬局での顔認証付きカードリーダーの導入の遅れから、完全に普及するにはもうしばらく期間がかかりそうです。
いずれ医療機関や薬局へ導入されるので、受診の際にサービスを利用されたい方はマイナンバーカードを作成しておきましょう。
健康保険証の役割|まとめ
健康保険証は、加入している公的医療保険によってデザインは異なりますが、その使い道に大きな差はありません。
ただ、会社を退職するときや扶養を抜けるときなどのように健康保険証の資格を喪失する期間がある場合には、サービスを受けられなくならないように公的医療保険への加入の引継ぎをしっかりしておく必要があります。
今後、マイナンバーカードと連携させることにより、さらに充実したサービスを受けられる可能性があるので、興味がある方はマイナンバーカードの作成も検討しておきましょう。