MRI検査は磁力と電磁波を使って身体の任意断面を撮像する検査です。
MRIという名称は”Magnetic Resonance Imaging”を略したもので「磁気共鳴画像」という意味があります。
強力な磁石と電波を使って身体の内部の状態を診る検査で、電波をあてて出てくる信号を読み取り、いろんな方向の断面画像をつくることができます。
検査中に「ドンドン」「コンコン」と工事中のような大きな音がするのが特徴で、狭い空間で検査をするので圧迫感が強いです。
今回は、MRI検査についてわかりやすく解説していきます。
MRIの撮像原理
人の体は年齢ごとで若干の差はありますが、その半分以上(約50~80%)が水分でできています。
MRIではこの体の中の水分(水素原子)に対して「磁力」や「電磁波」を用いることにより、核磁気共鳴という現象を起こし収集したデータを画像化しています。
MRIの撮像原理はとても分かりにくいので、図を使って説明していきます。
①自然状態の体内の水素原子はバラバラ
人体を構成する水素原子は1㎤あたり1023個存在していて、そのひとつひとつはバラバラの状態でコマのように回っています。
②水素原子のバラバラな方向を一定にする
バラバラの状態でコマのように回っている水素原子を磁力で一定の方向にします。
MRI装置は大きな磁石になっており、このMRI装置の中に入ることで水素原子の方向を一定にすることができます。
③RFパルスを加えて特定の方向を向けさせる
MRI装置の磁力によって一定方向を向けさせた水素原子に、RF波(電磁波)を加えることによって特定の方向を向けさせます。
④RFパルスを切ったときのMR信号を受信する
RF波(電磁波)によって一定方向を向いている水素原子は、RF波を切ると細胞ごとに異なった信号を出しながら元の状態に戻ろうとします。
このときに発生する信号が「MR信号」です。
MRI検査では、このMR信号を受診し画像データをつくっています。
MRI装置の性能
MRI装置は磁力を使って検査を行うため、装置ごとの「磁力の強さ」は検査に大きく影響を及ぼします。
そして、この磁力の強さは大きいほど性能が良く細かい検査を行うことができます。
現在、医療施設では「0.4テスラ、1.5テスラ、3テスラ」の3種類の性能のMRI装置が主に使用されています。
テスラ(T)とは、磁力の強さを表す単位で数字が大きくなるほど強い磁力になります。1T(テスラ)=10,000G(ガウス)です。一般の人が、日常でよく見かけるのは、磁気ネックレスですが、その磁気ネックレスの磁力は1,300Gぐらいです。つまり、1.5TのMRI装置は磁気ネックレスの10倍ほどの磁力を持っているということになります。
0.4TのMRI装置の特徴
0.4TのMRI装置は、肩関節・膝関節・頸椎・腰椎・関節内の靱帯や神経などの整形領域の撮像を主に行いますが、磁力が弱いので頭部や腹部などの撮像はうまく撮像できません。
その代わりオープン型の装置で検査中の圧迫感が少なくなります。
1.5T、3TのMRI装置の特徴
1.5T、3TのMRI装置は、整形領域、頭部、腹部などすべての部位の撮像が可能です。
ただ、筒状の検査装置に身体を入れて検査を行うので、検査中の圧迫感が大きく閉所恐怖症の方は検査ができないことが多いです。
現在、多くの医療施設で稼働しているのはこのタイプの1.5TのMRI装置で、3TのMRI装置になると磁力は強いのですが設置費用などのコストが高額になるため、大学病院や研究施設で用いられることが多いです。
MRI画像のつくり方・撮像時間
MRI検査の撮像は必要な断面ごとに撮像を行っていきます。
撮像する断面の数は、医師が診察をして決定するためはっきりとは決まっていませんが、1つの断面の撮像に5~10分程度の時間がかかります。
そのため、撮像する断面の数が多くなるほど検査時間は長くなることになります。
検査時間は15分以上はかかる
通常、MRI検査では3断面以上のデータ収集を行うため、15分以上は撮像の時間がかかります。
この15分は「定期的な検査なら・・・」という感じなので、精密な検査を行う場合には30~40分程度かかると考えていた方がよいです。
検査中に動いてしまった場合にはさらに時間がかかる
MRIの撮像では、ワンセットの画像を5分かけて少しずつ撮像していくわけではなく、5分間収集した画像データから画像を撮像します。
つまり、検査中に一瞬でも動いてしまうと撮像中だったワンセットの画像データはダメになってしまうので、そのセットを再度撮り直さないといけなくなります。
そのため、撮り直さないといけない場合には検査時間が伸びてしまいます。
撮像されたMRI画像
MRI検査で撮像された頭部のMRI画像です。
同じ断面の画像ですがそれぞれ別々にデータ収集されたものです。
下の画像は頭部の血管の画像です。
得意な撮像部位と病変
MRI検査は磁力と電磁波を使用して画像をつくり、体内の水分(水素原子)に作用して画像データを収集しています。
そのため、体内において水分が多い脳・脊髄などの撮像に優れています。
それとは逆に空気やガスが多い部位(肺、腸管など)の画像データは収集できないので撮像はできません。
得意な撮像部位 | 脳・脊髄・関節・骨盤腔内臓器など |
得意な病変 | 早期の脳梗塞・脳ドッグ |
MRI検査のながれ
MRI検査には、単純MRI撮像と造影剤を使用して行う造影MRI撮像があります。
造影MRI撮像で使用する造影剤には副作用がありますが、得られる情報量はとても多く、癌の疑いがある場合には必ず用いられます。
単純MRI撮像と造影MRI撮像では、検査のながれが多少異なるので別々に説明していきます。
単純MRI検査のながれ
単純MRI検査は入室から退室までの時間を20~30分程度で終了することができます。
- 更衣を行う(身に着けている金属のチェック)
- 検査室へ入室
- 寝台に寝る。
- 撮像(寝台は一定の位置に移動後止まります)
- 撮影終了
- 退室
- 更衣
造影MRI検査のながれ
造影MRI検査は入室から退室までの時間を30~40分程度で終了することができます。
ただ、造影剤という特殊な薬を血管から静脈注射するので、使用する薬の副作用などの説明を検査前に受ける必要があります。
- 造影剤の問診をとる(アレルギー、既往歴、腎機能など)
- 更衣を行う(身に着けている金属のチェック)
- 検査室へ入室
- 寝台に寝る。
- 単純MRI撮像(寝台は一定の位置に移動後止まります)
- 造影剤を静注する。
- 造影MRI撮像
- 撮像終了
- 腕のルートをはずします。
- 退室
- 更衣
- 造影剤の副作用が出ないか少し様子をみます。
造影MRI検査の有用性と副作用
造影MRI検査では、単純MRI撮影では確認しづらい腫瘤病変などを造影剤を使用することにより描出することができます。
ただ、造影剤を使用することで副作用が出ることもあり、その使用にあたってはしっかりした説明をしたあとに同意書へのサインを求められます。
造影剤を使用することで、
- 造影剤を使用していないときの画像
- 造影剤を使用したときの画像
といった同じ断面でも異なる画像を得ることができます。
これにより、判別が難しい腫瘤病変などの確認を行うことができます。
造影剤の使用によって副作用が出現する方もいますが、ほとんどの方は異常なく造影MRI検査が終わります。
また、副作用にも軽いものから重篤なものまであり、検査中に重篤な副作用が出現した場合にはすぐさま検査を中止します。
副作用 | 症状 |
---|---|
軽い副作用 | 吐き気、動悸、頭痛、かゆみ、発疹など 副作用の頻度としては、約1%です。 |
重い副作用 | 呼吸困難、意識障害、血圧低下、ショック、末梢神経障害による激しい痛み、全身性の線維症など 副作用の頻度としては、0.05%以下です。 |
血管外漏出 | 稀に造影剤が血管外に漏れ、痛みや腫れが生じることがある |
また、副作用が出現しやすい方にも特徴があり、検査前の問診で以下のような既往がある方は検査を行わない場合もあります。
- 今までに造影剤による副作用を起こしたことのある方
- 気管支喘息の既往をお持ちの方
- 重篤な腎障害の既往をお持ちの方
- 重篤な肝障害の既往をお持ちの方
造影剤はほとんどが尿として排泄されるため、水分を多めに摂ることで排泄を促進します。
MRIの検査費用
「MRI装置の性能」の説明で、”磁力の強さ”によってMRIの性能が異なることを説明しましたが、MRI撮像の検査費用もMRI装置の性能ごとで異なります。
そして、もちろん性能が良くなるほど検査費用も高く請求できるように設定されています。
MRIの性能 | 検査費用 | 保険適用(3割) |
---|---|---|
3T以上 | 20,500円 | 6,150円 |
1.5T以上3T未満 | 17,800円 | 5,340円 |
それ以外 | 13,500円 | 4,050円 |
MRIの検査費用はMRI装置の性能ごとで異なりますが、撮像部位や撮像断面数では変化しないようになっています。
MRI装置の性能が違う&撮像部位は同じ
0.4TMRI装置と1.5TMRI装置でそれぞれ膝を撮像する場合には、画像データに大きな変化はありませんが、性能の良い1.5TMRI装置での検査費用の方が高くなります。
MRI検査では撮像部位や撮像データの内容が同じでも、MRI装置の性能によって検査費用は変化します。
MRI装置の性能は同じ&撮像部位が違う
1.5TMRI装置で頭部を撮像する場合に、撮像断面数が異なったとしても検査費用は同じになります。
MRI検査では撮像断面数が異なる場合であっても、MRI装置の性能が同じであれば検査費用は同じになります。
MRI検査でよくある質問 Q&A
なかなか受ける検査ではないからこそいろいろな質問がでます。
MRI検査を受けるにあたってよくある質問をまとめました。
MRI室で聞こえる「シュッコン、シュッコン」という音は何?
MRI検査室に入ると検査前にも関わらず「シュッコン、シュッコン」と音がしています。
この謎の音の正体はMRI装置内にあるコンプレッサーの音です。
MRI装置は、強力な磁場を発生させるときに装置の一部から高熱が発生するため、常に冷却する必要があります。
この冷却には液体ヘリウムを用いますが、この液体ヘリウムも冷却する必要があり、その際にコンプレッサーを使用しています。
「シュッコン、シュッコン」という音はコンプレッサーの音です。
検査中にする工事現場のような音の原因は?
MRIの検査中は、「ガガガガ」「ガンガンガン」「ビービービー」などの工事現場のような大きな音がしています。
とてもうるさくて不快な音なのですが、この音は装置内のコイルが振動している音になります。
MRI装置は、装置内部に取り付けられているコイルを使って、磁場の強さや方向を変化させています。
そして、この磁場の切替を行うことによって、いろいろな画像を得ることができます。
この磁場の切り替えは高速に行われていて、切り替えの際の大きな力によってコイルが振動しています。
MRI室に金属を持ち込むとどうなりますか?
MRI室への金属の持ち込みは禁忌になっています。
そのため、MRI室への入室時には、金属探知機などを用いて厳重に金属を持っていないかチェックをします。
もちろん、これは医療従事者であっても同じで、検査を行う診療放射線技師や看護師もペンやはさみなど持ち込まないように注意をしています。
MRI装置は装置の中心ほど磁力が強くなり、また、その引き付けられる金属の大きさが大きいほど強い力で引き付けられます。
クリップやペンなどの小さいものなら引き付けられても人の力で対抗することができますが、車イスや酸素ボンベなどの大きなものになると、MRI装置から引き離すことが困難になります。
「神戸大学医学部附属病院 放射線部」によって、MRI装置の吸着実験を行った動画がありますので興味がある方はご覧ください。動画は酸素ボンベがMRI装置に吸着される様子を撮影しています。
MRI検査室の外では吸着されませんか?
強い磁力を持っているMRI装置ですが部屋の外に置いてあるものは引き寄せられないのでしょうか?
これについては大丈夫なように工夫がされており、どの病院においても、MRI装置を導入する際には検査室の壁に電波シールドと磁気シールドを設置するように義務付けられています。
そのため、部屋の外にはまったく影響を及ぼすことはありません。
MRI検査をわかりやすく解説|まとめ
MRI検査は磁力を利用した検査なので放射線被ばくもなく安心して検査を受けることができます。
ただ、検査時間が少し長く、圧迫感も大きいので検査を拒否される方も中にはいらっしゃいます。
どのような検査なのかを検査を受ける前に確認してもらえらばと思います。
また、MRI検査と似ている検査にCT検査というものもあります。
MRI検査とCT検査の違いについても別の記事にまとめましたので興味がある方はご参照ください。